N.T.Wrightについて

 N.T. WrightのHow God Became Kingの読書会がまもなく始まろうとしているので、NTWをこれまで読み、聞いてきたものとして、彼の特徴をいくつか挙げておきたい。
 まず、彼はイギリスの福音派出身であるという点。「4つの法則」なんかも良く知っている世代である。ところが、そうでありながらも、新約聖書学者として福音派の枠組みを越えた人たちとの議論の中に自らを置いている。それゆえ、北米の保守的な福音派の聖書理解で取り組むのではなく、もっと自由な枠組みで聖書に取り組んでいる。たとえば、ダニエル書のダニエル著作性などは語らず、ダニエル書をマカベアの反乱の文脈で理解している。ある意味、イギリスの福音派であり、聖書の理解においては、北米の保守的な福音派よりは自由である。つまり、福音派出身ではあるが、福音派固執していない。
 次に、彼は歴史学者であると自認している点。しかし、古い意味での歴史学者ではなく、「世界観」や「物語」という枠組みでイエスパウロ福音書などを歴史的に理解しようとしている。それゆえに、当時の歴史的、文化的、社会的背景を重んじている(だから、第二神殿期のユダヤ教理解についての研究が彼にとっては重要であるし、旧約聖書との連続性は彼の新約理解に欠くことができない)。しかし、ただある出来事が「起こった、起こらなかった」という枠組みではなく(もちろん、復活の史実性などは重要だが)、当時の人々の世界観でどのように受けとめたかを考えている。それゆえに、旧約聖書を当時の人々がどのように理解したかを最大限に受けとめるし、その逆に現代の枠組みで新約聖書を読む人たちに対しては批判的である。Richard Haysと彼の対話を見ると、NTWがどれだけ「歴史学者」であるかがわかる。
 三つ目に、彼はポスト・モダニズム批評の精神に立って、これまでの聖書解釈がいかに啓蒙主義後の影響を受けていたかを指摘している点。従って、モダニズムに対しては、意識的に批判的である。それが、彼の福音派そのものへの批判にも現れているし、いわゆるリベラルな人々への批判にも現れている。そして、ポスト・モダニズム批評の精神に則っているからこそ、聖書のグランドナラティヴを重んじる方向を受け入れることが可能であろう。
 四つ目に、英国国教会の指導的な立場にあった点。保守派とリベラルの相克する現実との対話や社会的な問題に対する関与、さらにはイギリスの貴族院議員を務めていたゆえに政治的な発言もしてきている。しかし、うわさでは、bishopの仕事より、学問ばかりしていて顰蹙をかっていたそうだが。
 最後に、彼はたいそう沢山の本を書いている点。それも、学者レベルのものから、信徒レベル、はてはキリスト者でない人でも読めるレベルの本を書いている点。そして、本を書いているからこそ、メディアの世界(テレビ、ラジオ)や学会(聖書学などなど)にもよく出ている。
 これらのすべてを持ち合わせているのがNTWであり、彼のある意味での新しさは、彼がこれらすべてを同時に持ち合わせた人である点だと思う。もちろん、学者としての間違い、もあるのは事実。そのあたりは心すべきだと思う。