痛みを感じる方向に

 電脳コイル、ラス前。
 一回目に見た時には、電脳コイルという現象がなぜ起こるのか、イサコの過去にはなにがあったのか、など、謎解きに興味があったが、二回目に見ている今回は、全く違った視点で見ている。「痛みを感じる方向」という視点。ヤサコは、痛みを感じる方向にあえて進んでいるような気がする。金沢に戻り、マユミに連絡をとる。マユミの厳しいことばを聞き、自分の力で捜そうとする。そして、捜すための手がかりは「痛みを感じる方向」。マユミとの過去の痛み、そしてイサコとの様々な過去の痛みと痛みによる結び付きなどをヤサコは直面している。そして、痛みに向き合い続ける時、あっちへの入り口に行き当たる。
 その一方で、イサコは過去の痛みに向き合いつつ、逃げつつ。崩壊しつつある世界にとどまることによって痛みから逃げている。ヤサコが兄を奪い取った過去を思い出し、彼女を拒絶する。その一方で、昔、ヤサコを見る前に、兄と別れるためにここにいることを思い出す。
 このように、痛みに対して徹底的に対峙する態度をとったヤサコと中途半端な態度であるイサコ。中途半端なイサコが、勇気を出して一歩進む。これが電脳コイルのポイントなのかも知れない。
 そんな風に考えると、あっちの世界の理屈は本質的にこの物語の中心ではない。やっぱり、イサコがヤサコに近づき、ヤサコがイサコに近づく、それが青春なんだろう。