ルツ記

 士師記の混乱と戦いの時代に起こったひとつの出来事をルツ記は描いています。旧約聖書の書にその名前を記されている人たちは多くいますが、ルツだけが唯一イスラエルの民ではありません。しかし、異邦人であったルツが本書にその名前を残すだけではなく、イスラエルの王ダビデ系図に名を連ねるようになります。いったい、何が起こったのでしょうか。
 
I. モアブの地からベツレヘムへ(1章)
 ベツレヘムに住んでいたエリメレクとナオミ夫妻は、飢饉のゆえにヨルダン川の向こう岸のモアブの地へ移住しました。エリメレクの死後、二人の息子はモアブの女を妻に迎えましたが、不幸にもこの二人も若くして死んでしまいました。一族の跡継ぎは誰もいなくなってしまいました。
 そのような中で、ナオミは主がその民を顧みられ、ふるさとの町ベツレヘムにおいても食物を与えられるようになったことを聞き、帰還することを決断しました(1:6)。そして、二人の嫁を連れて帰路につきましたが、その途中、彼女は二人の嫁に自分の母の家に帰るように勧めました。当時の習慣に則れば、彼女たちはナオミから次に生まれる男の子と結婚することができました。しかし、ナオミの年齢から考えた時、それは不可能なことです。ナオミと共にベツレヘムに戻るならば、彼女たちは一生やもめのままで暮らさなければならないでしょう。そのような生涯を二人に送らせたくはなかったナオミは、彼女たちにモアブへ戻るようにと進めました。嫁としての責任を今まで忠実に果たしてきたことをたたえた上で、イスラエルの神である主が彼女たちにいつくしみを賜ることを祈りつつ(1:8-9)、ナオミは嫁たちを返そうとしました。
 嫁のひとりであるオルパはモアブへ帰っていきました。しかし、ルツはベツレヘムに共に行く、と訴えました。「あなたの民はわたしの民、あなたの神はわたしの神です」(1:16)とのルツの言葉を聞いたナオミは、ルツの提案を拒絶しませんでした。そして、二人でベツレヘムに帰還した時、ナオミはモアブにおける苦しみを思い出して、自らをナオミ(楽しみ)ではなくマラ(苦しみ)と呼び、自らはなにも持たずに帰ってきた、と嘆きました(1:20-21)。
 
II. ボアズの畑において(2章)
 ちょうど過ぎ越しの祭りの頃のことです。ベツレヘムでも大麦の刈り取りが始まっていました。ナオミとルツは自分たちで農作業をすることができませんでしたから、当時の習慣に従って、大麦畑の落ち穂を拾うことによって自分たちの食を得ることにしました。そして、老齢のナオミに替わって、ルツが落ち穂拾いに出て行きました。彼女は、「はからずも」エリメレクの一族であるボアズの畑に来ました(2:3)。ルツについて聞いたボアズは、自分の畑で十分に落ち穂を拾うように勧めました。他の人の畑では、モアブの女であるがゆえにひどい仕打ちを受けるかもしれないからです(2:22参照)。モアブの女である自分がそこまで親切にされたことにルツは驚きました。しかし、ボアズは彼女が嫁としての責任を果たすために生まれた国を去り、ベツレヘムまでルツが来たことを讃え、主が彼女の行動に報われるように、と祝福を祈りました(2:11-12)。
 多くの大麦を持ち帰ったルツを見たナオミは、驚きました。更に、エリメレクの親戚であるボアズがそのようにしてくれたことを聞き、彼女は「生きている者をも、死んだ者をも顧みて、いつくしみを賜る主が、どうぞその人を祝福されるように」(2:20)と感激の声をあげました。これは、ルツを通して表されている主のいつくしみにナオミが気がついた瞬間でした。エリメレクの一族を主は見捨てておらず、むしろモアブの女であるルツを通して、つまり彼女の姑にたいするいつくしみを通して、主が祝福の回復をはじめておられることにやっと気がついたのです。実は、ナオミは「から手」でベツレヘムに戻ってきたのではありません(1:21)。ルツという主からの賜物と共に帰ってきていたのです。神の賜物にナオミは気がついてはいなかったのです。
 
III. ボアズの打ち場において(3章)
 ルツの落ち着く場、つまり結婚相手を見いだし、さらにアビメレク一族を回復するために、ナオミはひとつの提案をしました。それはルツがボアズに求婚することでした。なぜならば、ボアズはエリメレクの親戚でしたから、ルツを妻として迎え、エリメレク一族を回復することが可能だったからです。大麦の収穫を終えて、打ち場で大麦をあおぎ分ける夜、ボアズはひとりで打ち場の番をすることをナオミは知っていました。そこで、ボアズが寝た後に、そこにルツが行き、求婚すれば、秘密裏にこのことを進めることができると、ナオミは提案しました。「寝ている人の足の所をまくって、そこに寝る」(3:4)は女性からの求婚のしるしです。
 ルツはナオミの提案通り行いました。「あなたのすそではしためをおおってください」(3:9)との声を聞いたボアズは、彼女の「いつくしみ」(口語訳では「親切」と訳されている)に感動しました(3:10)。嫁としてモアブの地から来たのみならず、エリメレク一族に対する嫁の責任を果たそうとしたルツのいつくしみ(忠実さ)をボアズは目の当たりにしたからです。そこで、ボアズはルツの提案を受け入れました。しかし、ボアズよりもっと近い親戚が親戚の義務(「エリメレク一族の嗣業をあがなうこと」)を放棄してはじめて彼が行動に移せることをルツに伝え、朝早く彼女をナオミの所に返しました。大麦六オメルを持たせて。
 
IV. ベツレヘムの町の門において(4章)
 ボアズは、法律的な様々な取り決めを行う町の門に行き、親戚の人と町の長老と共に、エリメレク一族についての話し合いを行いました。エリメレク一族には主から委ねられた嗣業がありました。しかし、それを受け継ぐ人がいないので、それをナオミが売りに出したことをボアズは伝えました。律法に従えば、エリメレクに最も近い親戚がそれを引き継ぐ責任があります。そこで、親戚の者はよろこんで嗣業を買い取ることに同意しました(4:4)。ところが、その地所を買い取る時、ルツをも引き取り、彼女から生まれた男の子にその嗣業の地を伝える責任があることを聞いた時、親戚のものは嗣業の地をあがなうことを拒絶しました。自分の嗣業を損なう可能性があったからです(4:6)。そして、第2番目に責任と特権を持つボアズにそのようにするように委ねました。
 権利が譲渡されたボアズは、エリメレク一族のすべての嗣業をナオミから買い取り、ルツをも自分の妻として迎えました。そして、死んだ人々の名前が途切れることなく、嗣業が伝えることを誓いました(4:9-10)。門にいたすべての民と長老はそのことの証人となり、ルツを祝福しました。ボアズがみずからの嗣業をも失う覚悟で、エリメレク一族の嗣業をあがなったのです。そして、主はルツに男の子オベデを与えられました。主がナオミとエリメレク一族を見捨ててはいない証拠であり、ボアズの信仰ある行動への主の応答でした(4:14-15)。
 主の回復のみわざは主のいつくしみ(忠実さ)が人のいつくしみ(忠実さ)と出会った時に現実となります。そして、そのことを通して主の不思議なみわざが進められていきます。わたしたちも主のいつくしみによって、いつくしみに生きる者とさせていただきましょう。