ネヘミヤ記

 ネヘミヤ記にはエズラ記同様にバビロンから帰還したユダヤ人たちがエルサレムを復興していくさまが書かれています。神殿は完成しましたが、まだエルサレムの町の城壁は完成していませんから、町としての機能も十分に果たすことはできていません。更に、律法に則って民の歩みを改革する必要もありました。ペルシア帝国において高い位についていたネヘミヤはこのようなエルサレムの状況を知ったので、王に申し出て、エルサレムに帰還し、改革と復興を実現していきました。その姿が本書には描かれています。
 なお、本書はネヘミヤが一人称で語っている部分が多くあり、そのために「ネヘミヤの回想録」と呼ばれることがあります。
 
I. エルサレムの城壁を再建する(1〜7章)
 ペルシア帝国の首都スサでアルタシャスタ王の給仕役(王の食事の毒味役)であったネヘミヤは、エルサレムから戻ってきた者から町の惨状とそこに住んでいる民の悩みとはずかしめについて聞きました(1:1-3)。この報告を受けたネヘミヤは、自らの民の罪を主の前に告白し、「今、わたしたちは主に立ち返りますから、回復を与えてください」と祈り願いました。そして、その第一歩として、王の前でネヘミヤがあわれみを得る事ができるよう、主に求めました(1:1-11)。
 彼の祈りは聞かれました。神は王に働きかけてくださったのです。王はネヘミヤの願いを聞き、彼を彼の先祖の墳墓のある町エルサレムに送り、必要な資材ならびにその地域を管轄する州の知事たちへの手紙を与えました(2:1-8)。
 しかし、エルサレムに帰還したネヘミヤを待ちかまえていたのは城壁の再建に反対するサンバラテ(サマリヤ地域の総督)とトビヤでした(2:9-10)。なぜ彼らがネヘミヤの到来に反発したかは聖書には書かれていません。その一方で、ネヘミヤは自らの願いを誰にも明かすことなく、エルサレムでの行動をはじめました。夜中のうちに秘密裏にエルサレムの崩れた城壁を視察した後はじめて、ネヘミヤは同胞のユダヤ人、つかさたち、祭司たちに自らの願い、つまりエルサレムの城壁の再建を告げました。彼らもその意見を歓迎し、天の神の励ましによって、奮い立って進んでいきました(2:11-20)。
 多くのユダヤ人たちが分担して、エルサレムの城壁ならびに門の再建に着手しました(3章)。同時に妨害も激しくなりました。あざけりの言葉から始まり、エルサレム攻撃のうわさ、さらには城壁を再建している民の疲労と、問題は次々とユダヤ人たちに襲いかかってきました。しかし、神はこれらの問題にも打ち破られました。そして、武装しながら工事を続けるという激務の中で、城壁再建の工事は進んでいきました(4章)。
 当然、ユダヤ人の間で不平も生まれてきます。その不平の言葉を聞いていたネヘミヤは、民の間に問題があることに気がつきました。それは同じユダヤ人の間で利息をとって金と穀物を貸していた事実です。この負債のために多くの民が疲れ切っていました(5:1-5)。ネヘミヤはこのことを聞いて怒り、そのような取り扱いをやめることを進言しました。自分の兄弟を売ろうとするような行動は、神をおそれない行動であったからです。民もそれに同意しました(5:6-19)。
 ユダヤ人の間の問題は解決しましたが、外部からの誹謗中傷は止まりませんでした。ネヘミヤたちが反乱を起こそうとしている、といううわささえ立てられました。しかし、ネヘミヤたちは主に祈りつつ、城壁を52日間で完成しました。神が確かに彼らを助けられたのです(6章)。エルサレムの町の中に住む者たちはまだ少なかったのですが、順次、神殿に仕える祭司やレビ人たちがそこに住みはじめました(7章)。
 
II. 律法の朗読(8〜10章)
 城壁の完成した年の七月の一日、民は広場に集まり、エズラモーセの律法の書を読むのを聞きました。人々は律法の解き明かしをも聞き、それを良く理解しました。あまりの感動に民は泣きましたが、ネヘミヤはそのことを止め、むしろ「主を喜びことはあなたがたの力です」(8:10)と人々に進めました。そして、律法にしたがって仮庵の祭りを一週間守りました(8章)。
 続いて同じ月の二十四日に、イスラエルの民は共に集まって、自分の罪と先祖が犯した罪を主の前に告白しました。そして、祈りが主にささげられました(9:6-37)。そこでは、イスラエルの歴史をアブラハムから振り返り、主が契約を結び、その約束を成就されたこと、エジプトの苦難から救いだし、律法を与えてくださったこと、荒野において背いた時にも民を見捨てずに導かれ、約束の地を与えてくださったこと、主に不従順であった民に対して、警告を与え、不従順を忍び、恵みとあわれみを注ぎ続けてくださったこと、そして、捕囚の憂き目に会ったあと、今、自らが苦悩の中にあることを祈りました。その後、ユダの民は律法に従うとの契約を主と結びました(10章)。
 
III. ネヘミヤによる改革(11〜13章)
 住人がたいへん少なかったエルサレム(7:4参照)に移住を申し出る人たちが起こされました(11章)。さらに、多くのレビびとと祭司が神殿の働きにつきました。そして、ついに城壁の落成式が行われ、民は感謝と讃美と犠牲を主にささげ、大いに喜びました。この日、神殿の働きをつかさどる人々にはその役割が割りあてられました(12章)。
 城壁が完成し、町に多くの人が住むようになりました。しかし、ユダヤの民の間には、まだ改革すべき点が多くあることが明らかになりました。彼らは10:28-39に書かれている契約の言葉を守っていなかったからです。具体的には、異邦人が会衆の中におり、また異邦の女を妻としてめとっている(13:1-3, 15-22、10:30参照)点、レビ人が受くべき分を得ていない(13:10-14、10:31-39参照)点、安息日を守っていない(13:15-22、10:31参照)点です。ネヘミヤはこれらの問題にも対処し、ついには聖なる主にふさわしい、きよめられた共同体をエルサレムにたてあげていきました(13:30-31)。
 ひとつの共同体が完成するためには、様々な側面での働きが必要です。町の城壁を完成することだけではありません。そこで律法が読まれ、学ばれること、そこで人々が祈ること、そしてそこで主のみこころに従った歩みが現実となることが共同体の完成の為には必要です。教会という共同体も同じことがいえます。会堂という建物が完成したことは、入り口に過ぎません。そこに集う人々の間にみことばと祈りが満ちあふれ、さらにその生き方が神によって造りかえられていってはじめて主に喜ばれる、きよい共同体、つまり聖なる教会が誕生します。わたしたちも現代のネヘミヤとなってこの教会を建てあげるものとさせていただきましょう。