エズラ記

 創世記から列王紀上下に至る歴史、また歴代志上下に描かれている歴史はどちらもバビロンによるユダの民の捕囚(紀元前586年)をもって幕を閉じています。王を失い、神殿を破壊され、領土を奪われた民は絶望の中にいました。その一方で、預言者たちによる破壊のあとの希望の預言も語られていました。
 預言者が語った希望が現実となり、捕囚の民はエルサレムへ帰還します(1:1)。これは、かつてメソポタミヤから地中海沿岸を治めていたバビロン帝国が滅び、ペルシア帝国がそれに替わって世界を治めはじめた(紀元前539年)からこそ起こった奇跡です。本書には、エルサレムへ帰還した民が様々な抵抗の中で神殿を再建し、さらに律法の書を携えたエズラが帰還して、改革を行ったことが記されています。どのような形で、この帰還と改革が進んでいくのでしょうか。
 なお、旧約聖書のほとんどの部分はヘブライ語で書かれていますが、本書の4:8-6:18はアラム語ヘブライ語の親戚に当たる言語)で書かれています。
 
I. 抵抗の中での神殿の再建(1〜6章)
  ペルシア王クロスがバビロン帝国の都バビロニアを平和裏に占拠した時、彼はエルサレムの神殿を再建するようユダの民に命じました。それは「天の神、主」の命令であると述べられています(1:2-4)。この命に応え、ユダとベニヤミンの氏族の長、さらには祭司とレビ人はエルサレムに帰還するために立ち上がりました(1;5)。さらに、クロスは、バビロン王ネブカデネザルによって奪われた神殿の什器すべてを携え上ることができるように彼らに与えました(1:6-11)。そして、多くの民、祭司、レビびとがエルサレムに帰還しました(2章)。
 帰還した者の中に、祭司エシュアとダビデ王家の血を引くゼルバベルがいました。彼らはまず帰還した民と共にエルサレムに祭壇を築き、燔祭をささげ、様々な定められた祭を再開しました(3:1-7)。帰還した次の年、神殿の基礎の工事が始められ、それが完成しました。神殿の再建の第一歩が現実となったことを目の当たりにした民は主へ感謝の讃美を涙を流しつつささげました(3:8-13)。
 ところが、神殿の再建は順調には進みません。なぜならば、バビロンに捕囚されずにパレスチナの地に残っていた者たち(「その地の民」〔4:4〕)が神殿の再建を妨げたからです(4:4-5)。その結果、神殿そのものの再建の工事はダリヨス王の治世までのばされてしまいました。なお、エルサレム復興の働きが妨害されたのは、この時だけではありませんでした。ダリヨス王の時代のあと、アハスエロスがペルシャ王であった時代にも、町の城壁の再建を止めようとする妨害は起こっています(4:6-23)。この時には、「ユダヤ人たちが過去にもそうであったように反乱を起こし、ペルシャ帝国に税金を納めなくなる危険性がある」とその地の民たちが訴えたために、城壁の再建が留められました。このように、時代が変わろうとも、継続してエルサレムの再建の働きは妨害されてきました。そして、エルサレムに帰還した民は幾度と渡る抵抗に立ち向かわなければなりませんでした。
 さて、ダリヨスの王の治世、エシュアとゼルバベルは、預言者ハガイとゼカリヤを通して語られた主のことばによって励まされ、神殿の再建を始めました(5:1-2)。ところが、それを見た川向こうの州(ユーフラテス川の西岸の州)の知事たちはこれを止めようとしました。しかし、ユダヤ人たちは「クロス王の命によってこの建設を続けているのである」と言ってやめません。そこで、ユダヤ人の言葉の真偽をダリヨス王に問い合わせました(5:3-17)。そして、メデヤ州の都であるエクバタナの書庫においてクロス王の命を記した記録が見つかったゆえに(6:1-5)、神殿の再建は許可が与えられ、工事の必要は川向こうの州の必要から十分に与えられるべきことが命じられ、神にささげる犠牲までも与えられるように厳命が下されました(6:6-12)。その結果、神殿はダリヨス王の治世の第六年に完成し、その奉献式が行われました(6:13-22)。
 
II. エズラによる共同体の復興(7〜10章)
 神殿が再建されてから時代が過ぎ、アルタシャスタがペルシアの王であった時代、祭司の家系に生まれ、モーセの律法に精通した学者エズラエルサレムに帰還しました(7:1-9)。アルタシャスタ王は、彼にいくつかの使命を与えました。まず、彼が精通しているモーセの律法に従ってユダヤの事情を調べること、王、その議官、バビロン全州の民、ユダヤの民と祭司からあずかった州の神殿へのささげものをエルサレムに携え、それでささげものを購入し、エルサレムの神殿にささげること、主の神殿のために与えられた什器を神殿に納めること、ユダヤの民に律法を教え、それによるさばきを実践することが使命として与えられていました(7:11-26)。これはエズラの先祖の神である主がペルシアの王の心に神殿を飾る心を起こされたからです(7:27-28)。このようにして、異教の王にも働いて主のみこころを遂行される主への信仰に立って、エズラエルサレムへ出立し、その任務を進めていきました(8章)。
 ところが、エルサレムに帰還したエズラを待ちかまえていたのは、民が異邦の女を妻とし、子どもをもうけているという事実でした(9:1-2)。このことを聞いたエズラは驚愕し、断食し、着物を裂き、主に祈りました。その祈りにおいて、エズライスラエルの民がかつて犯した罪を告白し、その罪ゆえに捕囚の憂き目に会った事実を主のみ前に告げています。しかし、そのような民に対して、主は見捨てることなく、むしろ帰還と神殿再建の恵みを与えられました。けれども、今、その恵みにも関わらず、ユダの民は再び主の戒めを破っている現実を覚え、その大きなとがを切なる思いをもって主に告白しています(9:6-15)。
 この祈りをエズラが祈った時、群衆はエズラの所に来てその罪を告白し、異邦の妻とその子どもたちを追放する契約を結ぶことを誓いました。そして、しばらくの後、民は異邦の女を妻とした人たちを調べ終え、該当した人たちは妻をその子どもたちと共に離縁しました(10章)。このようにして、神殿や町の城壁のみならず、ユダヤの共同体も主の前に復興されていきました。