列王紀上17章〜下12章

 「列王紀」はその名前の通り「王たちの行動」が書かれています。しかし、今日の箇所は主が王と諸国に遣わされた預言者たちの行動に焦点が当てられています。エリヤとエリシャという著名な預言者たちが北王国の王たちと衝突した記事を今日は読んでいきましょう。
 
I. 預言者エリヤと北王国(上17章〜下1章)
 紀元前9世紀の始め、オムリが北王国の王として即位し、その結果、オムリ王朝が始まりました。オムリは北王国の都をテルザからサマリヤに移転させ、北方の国々との交易関係を結び、息子のアハブのためにシドンの王の娘イゼベルを迎えました(上16章)。交易の発展に伴い、北王国は経済的に栄えましたが、信仰的には暗黒時代を迎えました。その中でイスラエルの神である主が起こされたのが神のことばを王と人々に語る預言者エリヤです。
 エリヤの時代の人々は、主だけを神として信じ、礼拝している訳ではありませんでした。アハブとイゼベルによって導入されたパレスチナ土着の神であるバアルをも信奉し、都合のよい時に、都合のよい神を自らの神としていたようです。そのような信仰の姿を映していたのがアハブに仕えていた家づかさオバデヤです。彼は主を恐れ、主の預言者をイゼベルの手から守りつつも、アハブをも恐れ続けていました(18:3−16)。彼らはどっちつかずの態度で暮らしていたのです。そのような現状に対して、エリヤは「主こそが唯一の神である」ことを示し続けました。
 まず、彼は「わたしの言葉のないうちは、数年雨も露もないでしょう」(17:1)と宣言しました。彼のことば通り、北王国には雨が降らず、飢饉が訪れました。嵐と雷をつかさどる神であるバアルを信奉しているならば、そのあわれみによってこのようなことは起こらないはずですが、バアルは主の前には無力でした。しかし、人々はバアルを捨てようとはしません。むしろ、二つのものの間を行ったり来たりしています(18:20)。そこで、エリヤはカルメル山においてバアルの預言者たちと対決し、預言者の祈りに対して、火をもって答える神を神としようと彼らに挑戦しました(18:24)。バアルは雷の神でもありますから、バアルに有利なはずです。しかし、バアルはその預言者たちの祈りに全く答えません。ところが、生きておられる神である主はエリヤの祈りに火をもって答えました(18:38)。主こそが本物であることが明らかになったのです。
 また、スリヤの王ベネハダデがサマリヤを包囲した時、ひとりの預言者はアハブのところに現れ、彼がイスラエルの神こそ主であることを知るためにアハブに勝利を与えよう、と約束しました(20:13)。この預言者のことばの通り、主はサマリヤの山地における戦いにおいてアハブに勝利を与え、翌年の春には平野にあるアペクでの戦いにおいても勝利を与えられました(20:13−30)。けれども、勝利に酔いしれたアハブは主に従い続けることをせず、ベネハダテと契約を結んでしまいました。その結果、アハブへの主のさばきが確定しました(20:31-43)。
 アハブの妻イゼベルも、エズレルの王宮の隣にある、ナボテに属するぶどう畑を不正をもって奪い取りました。この行為のゆえに、預言者エリヤはアハブの一族ならびにイゼベルに対する厳粛なさばきを予告しました(21章)。このことを聞いたアハブは主の前に一時へりくだりました。それによって、主は一族へのさばきを延ばされました。しかし、アハブはスリヤとの戦いにおいて、偽預言者のことばにだまされて命を失いました(22章)。更に、アハブの息子であるアハジヤもエリヤの預言の通りに、病から回復せずに死んでいきました(下1章)。主に従わない北王国の王の上に預言者によって語られた主のことばが現実となっていきました。しかし、北王国にはまだオムリ王朝が続いています。
 
II. 預言者エリシャと北王国(下2章〜8章)
 預言者エリヤはその働きを終え、天に昇る時がやってきました。しかし、主の預言者の働きは継続します。それを引き継いだのがエリシャでした(上19:19−21参照)。エリシャはエリヤの外套を引き継ぎ、エリヤの霊を引き継ぎ、主の預言者の働きを続けていきました(下2章)。
 主は民の細かな要求にもエリシャを通して応えてくださっています。流産を起こす水を良い水にし(2:19−22)、預言者の未亡人に油を無尽蔵に与え(4:1-7)、こどものないシュネムの女に男の子を与え、その子が突然の病で死んだ時に彼を生き返らせ(4:8−37)、毒の入った野菜の煮物を無毒化し(4:38−41)、貧しい預言者が水の中に落としてしまったおのを水から浮かび上がらせました(6:1-7)。命の主であるエリシャの神は、日常生活の小さな必要にも心を留めてくださっておられることがこのことからもわかるでしょう。
 それと共に、モアブとイスラエルとの戦いにおいて、主はエリシャを通してイスラエルに勝利を与えられました(3章)。また、イスラエルの敵であるスリヤの軍勢の長ナアマンの病をもいやしました(5章)。そのスリヤから送られてきた略奪戴との戦いにおいて、主はエリシャ一人で彼らを追い返されました(6:8−23)。更に、スリヤ王ベネハダテによってサマリヤが包囲された時にも、エリシャの言葉通り、スリヤびとの軍勢を追い返されました(6:24−7:20)。これらの出来事からもわかるように、主は単にイスラエルだけの神ではなく、全世界の民をすべ治め、主により頼むものにはあわれみを下さる方です。残念ながら、北王国の王であるオムリ一族はこの事実に気がつくことはありませんでした。
 
III. クーデターと改革(下9章〜12章)
 バアル崇拝が蔓延した北王国にクーデターを起こし、オムリ王朝を終焉に導いたのは、エリシャと関わりのある預言者によって油を注がれ、主によって王として任命された将軍エヒウでした(9:1-10)。エヒウは自らが王となったことを宣言し、オムリ王朝最後の王であるヨラムを殺害し、イザベルとアハブの子ども達を処刑しました。更に、バアルの預言者たちを撃ち殺し、バアルの神殿をこぼちました。このようにして、エヒウは主の目にかなうことを行いましたが、ベテルとダンにある金の子牛を礼拝することだけはやめませんでした(9〜10章)。預言者を通して語られる主の言葉によって、北王国の歴史は確実に動いていきました。
 南王国はどうであったのでしょうか。オムリ王朝と南王国は友好的な関係を築き上げていました。その結果、アハブとイゼベルの娘であるアタリヤはヨラム王と婚姻関係を結び、南王国にもバアル崇拝が蔓延しました。オムリ王朝が終焉したあとも、アタリヤは南王国で影響力を持ち続けました。そして、自らの子であるアハジヤが若くして死んだあと、彼女は王の一族を皆滅ぼし、自らが女王として国に六年の間君臨しました(11:1-3)。しかし、アハジアの子であるヨアシは、そのおばのエホシバと神殿の祭司であるエホヤダの知恵により、アタリヤに殺されず、生き延びていました。アタリヤが実権を握っていた第七年目に、エホヤダはクーデターを近衛兵と共に起こし、正統であるヨアシが王として即位しました。そして、アタリヤは殺されました(11章)。その後、ヨアシはバアル崇拝の蔓延のために荒れ果てた神殿を修復し、主への礼拝を南王国に回復したのです(12章)。このように主は預言者と主に信頼するものを通して、両王国に働き続けられました。