サムエル記上16章〜下10章

 サムエルを通して主が与えられたイスラエルの王制でしたが、初代の王サウロの不従順によって、国に混乱が生まれてしまいました。しかし、主はイスラエルを見捨ててはおられません。新しい王を選び、続いて主はイスラエルを導かれるのです。
 
I. サウルとダビデ(上16〜31章)
 サウルに替わって主が選ばれたのは、ベツレヘムに住むユダ族のダビデです。人のこころを見られる主は、エッサイの八人兄弟の末っ子を選ばれました(上16:1-13)。サムエルはダビデに油を注ぎ、主は彼のその霊を臨ませました。しかし、主の霊はサウルからは離れ、むしろ悪霊が彼を苦しめるようになりました。しかし、サウルのこのがきっかけで、琴を弾くことが上手であったダビデは王宮に招かれ、サウルに仕えるようになりました(16:14-23)。
 ダビデの国における人気を一機に獲得する機会となったのは、ソコにおけるペリシテ人との戦いでした。重い青銅の防具に身を固めた、ガテのゴリアテという背丈3メートル近い巨人がイスラエルに向けて一対一の戦いを挑んできました。しかし、誰一人としてイスラエルの軍勢からは応えません。ダビデの三人の兄もこの戦いに出陣していました。そこで、エッサイは息子たちの安否を願ってダビデに貢ぎ物を持たせて、この戦場に送りました。そこで、「生ける神の軍」(17:26)に挑むゴリアテの言葉を聞いたダビデは、自ら進み出て、ゴリアテに戦いを挑みました。「ししのつめ、くまのつめからわたしを救い出された主は、またわたしを、このペリシテびとの手から救い出される」との確信(17:37)を彼は持っていましたから、軽装で、ただ石五つと石投げをもってゴリアテに向うことができ、ダビデは彼を撃ち破りました(17章)。この戦いにおける勝利の結果、ダビデは人々の人気を勝ちうるに至ります。サウルの娘ミカルもダビデを愛し、彼の妻となりました(18章)。また王の息子であるヨナタンも深くダビデを愛するようになりました(19:1)。
 しかし、ダビデの人気を嫌ったサウルは、ダビデを槍で刺し通そうとし(18:10-11)、ダビデをおそれ、ついには息子ヨナタンとすべての家来たちに、ダビデを殺すように命じます(19:1)。そして、翌朝にダビデを殺そうとサウルが決断したその夜、妻ミカルはダビデを窓から釣り下ろして、逃げさせました(19:11-17)。また、王宮の食事に出てこないダビデに怒りを発し、彼を殺そうとサウルが願っていることを確信したヨナタンは、密かにダビデと会合し、遠くへ逃げ去るように彼に進言しました(20章)。ダビデは仲間と共に逃亡を続けました。なお、ヨナタンは父に最後までついていきましたが、彼自身はダビデが次の王となると確信していました(23:15-18)。
 ダビデが台頭する一方で、サウルが王として不適任であることが一連の出来事でさらに明らかになされていきます。ダビデをかくまったという理由で、サウルはノブの祭司アヒメレクの一家を皆殺しするように命じました。王の家来たちは、主の祭司を殺すことをためらいましたが、エドムびとドエグは残酷にも祭司一家を撃ち殺しました(22章)。更に、預言者サムエルの死後(25:1)、ペリシテ人の軍勢を見て、恐れたサウルは、戦いの導きを求めて、主に伺いをたてました。しかし、主からの答えが全くないため、サウルは一度は自分が禁じた口寄せの女を捜し、死んだサムエルを呼び起こします。サムエルの声は、主の声に聞き従わなかったサウルを責め、王国はダビデに与えられると預言し、翌日、サウルがペリシテ人の手に渡されると宣言しました(28章)。
 ギルボア山でのペリシテ人との戦いにおいて、ヨナタンを含むサウルの子たちは殺され、サウルもひどく傷を負います。ペリシテ人に見つかって殺されることを嫌ったサウルは、武器を執る者に刺すように求めますが、彼は応じません。そこで、剣を執って、その上に伏し、自害します(31章)。主に聞き従わなかったことによって、主に見捨てられた王の最期は悲惨でした。
 その一方で、逃亡者として各地を転々としていたダビデは、ケイラにおける戦い(23:1-5)で勝利を獲得し、ダビデをあざけってきたナバルは主に撃たれ(25章)、ダビデの家族が移り住んでいたチグラグを撃ったアマレク人から奪われたすべてを奪還しました(30章)。また、二度もサウルを撃つ機会があったにもかかわらず、ダビデはそれらの機会を用いませんでした(24章、26章)。それは「主が油注がれた王を撃ってはならない」との確信に立っていたからです(24:6; 26:9)。
 
II. 祝福に満ちているダビデ(下1〜10章)
 サウルの死の知らせはダビデの元にも届きました。この知らせを伝えることによってダビデから報償をもらえると目論んだアマレク人を彼は罰し、むしろサウルとヨナタンのためにダビデは泣き悲しみました(下1章)。その後、ダビデは主の言葉に従ってユダの町ヘブロンへ上り、そこでユダの王として油注がれました(2:1-7)。一方で、サウルの軍の長であるアブネルは、サウルの子イシボセテをイスラエルの王として立て、ダビデとの間に戦いを続けます(2:8-3:1)。ところが、イスラエルの権力者である軍勢の長アブネルは、イシボセテを裏切り、ダビデの元に参じます。しかし、彼はダビデの軍勢の長であったヨアブによって、続いてイシボセテも暗殺され、サウル王朝は終わりを迎えました(3〜4章)。
 ついに、ユダ族のみならずイスラエルのすべての部族がダビデを全イスラエルの王と認めるようになりました。ダビデは全イスラエルの王として即位しました(5:1-5)。ダビデはエブスびとが住んでいたエルサレムを取り、そこを都とし、ペリシテびととの戦いにおいて連戦連勝を経験します(5章)。
 王としての地位は堅くなってきた時、ダビデはバアレ・ユダに置かれていた神の箱をエルサレムにかき上ることにしました。途中、十分な配慮をもって神の箱を運搬しなかったために主に撃たれる人がありました。しかし、ダビデはその後十分に備え、ダビデの町に主の箱をかき上ります。このようにして、王としての地位は、人によってのみならず、神によっても堅くされました(6章)。
 ダビデの王位が堅くなり、戦いもなくなり、主が国に安息を賜った時、ダビデは神殿を建設しようという願いを持ちました。それを告げられた王宮付きの預言者ナタンに主のことばが臨み、彼はそれをダビデに告げました。主は神殿を建てる必要はない、と宣言されました(7:4-7)。その一方で、ダビデに対するこれまでのあわれみを主が述べられた(7:8-9)後、ダビデに大いなる名を与え、今後奪われることのない領地をイスラエルに与え、安息を与えることを約束されました(7:9-11)。更に、ダビデから出る子孫にこの国の王位を与え、その位を堅くすることを主は誓われました。もはや、サウルのように主のいつくしみが彼らから取り去られることはありません。しかし、罪を犯した時には主の懲らしめがあります(7:12-17)。主のこの約束を聞いたダビデは、主の祝福が自らの一家に与えられることを祈りました(7:18-29)。
 このようにして、神の一方的な選びと祝福によって、そしてその祝福に対して主のことばに聞き従うことによって答えたダビデの王位は、主によって堅いものとされました。もはや、ダビデ家から、その王位を取り去らないと主は約束されました。しかし、「罪を犯した」時、主の懲らしめが王家に訪れます。事実、この絶頂の直後、ダビデ王家に悲劇が訪れます。主に聞き従うことをやめたダビデとその一族に、主の懲らしめが襲いかかるのです。